第52回 1年のまとめとして
●できる範囲で自分流に
夏至を過ぎて、いよいよ暑(しょ)と湿(しつ)の季節になりました。この時期は夏の養生(6回、44回)を参照してください。そして元気に汗をかいて暑い夏を乗り切ることが秋の健康につながっていきます。
日々のあわただしさに追われていると1年はあっという間です。そのあいだ、知らず知らず徐々に歳をとっているのですね。でも「年齢にさからわずに」(14回)は私の提案です。「陰陽のバランス」(19回)が取れていればそれぞれの年齢にあった健康が保たれ、心身ともに充実した毎日が送れます。
できることをできる範囲内で自分流にゆっくりです。
●私の考える薬膳
今まで紹介した食材を健康に役立てるために、私の考える薬膳というものを述べてみます。
最終の目標は病気の治療です。高血圧、糖尿病、神経痛などを毎日の食事で治そうとするものです。このためには中医学の正しい診断、治療方針(弁証論治といいます)が必要です。一人一人違いますので、まさにオーダーメイドの食事が作られます。処方に近いものといえます。
一つ前の段階は、少し体調が悪いときに考えられる食事です。食材の五性、五味、帰経が参考になります。
ご紹介した料理の中で利用できるものとして、例えば次のようなものがあります。
・風邪をひきそうだなと思う瞬間に作っていただきたい料理
トウチとネギのスープ(28回) 桂皮と棗と生姜のお茶(31回) ・冷え性を改善したい料理
紅花のスープ(24回) 当帰のスープ(25回) 豆いっぱいご飯(第21回) ・イライラするときの料理
セロリと百合根の炒め物(第20回) 酢の物一般
2、3日間、または1週間試みて、効果が期待できるものです。健康雑誌で紹介される、むくみを取る料理、美しくなる料理などはこの段階でしょう。
●スローフードの伝統
もう一つ前の段階は、季節を追って、旬のもの、土地のものを頭から尻尾まで全部いただく姿勢をもって料理をするというものです。この姿勢を貫いていただければ、病気になりにくい体の基本ができていきます。例えばトウモロコシでは実だけでなく、髭はお茶に、皮は米を包んで蒸す料理に、と余すところなく使えます。日本人は魚一尾を使い切ることができます。すばらしい伝統と思います。
現在スローフードといわれている食事の仕方はこの段階のイメージです。
●歳をとることが楽しみに
1年間のシリーズで私たちは五性、五味、帰経を知りました。自分の体に真摯に向きあい静かによく考えて、その日の体調にあった食材を選ぶことができます。
また自分の周りの大切な人の体調にも気を配って、適切な食材を選んであげてください。
さらに一番大切なことは笑って食事ができることです。おいしいと言って一緒に食べる仲間がいることです。体への吸収力が違ってきます。一人暮らしの方は、面倒でもできるだけ友人知人と一緒に食事する機会を作ってほしいと思っています。できれば手料理で。
これまでお話したような薬膳の考え方に、賛同して実践してくださる方がたくさんいらっしゃれば、歳をとっていくことが楽しみになっていくように思います。
<最後に>
今回で薬食同源レシピのシリーズはひとまず終了します。1年間「薬食同源レシピ」を見てくださった皆さま、本当にありがとうございました。
この企画を担当してくださいましたスローネットの皆様ありがとうございました。
私はこの4月から東京医療福祉専門学校の鍼灸専科に通い始めました。3年後は鍼灸師となっているはずと意気込んでいます。食事と薬(漢方薬)は体の中から、鍼灸は体の外から、私たちの体のバランスをとる手助けをします。自分の回りの人達が健康な生活を送るその手助けができたらと思っています。治したり、バランスをとったりするのは本人の力です。周りができるのは、あくまでも手助けですが。
そのほかの活動として、これまでご紹介した料理を交え、季節の食材を使った薬膳教室を希望に応じて開催しています。
また、平成16年に設立しました東京都特定非営利活動法人 伝統医学教育会の副理事長として中医学の正しい普及と教育活動に携わっています。
今後もより深く研鑽を重ね、実践できるよう努力いたします。よろしくお願いいたします。
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