東京シティガイド【3】幕末通の小学生
ようやく涼しい季節になりました。が、この夏の猛暑のなかの、思い出のガイドのお話を一席。
今回の依頼主はなんと小学2年生! それも幕末大好きな男の子! 暑い中、私のほうが煮詰まるのではないか…という不安がよぎりましたが、「子供のガイドも貴重な体験だ~」と心して臨みました。
当日は霧雨ということもあり、気温は少し低い(それでも30℃超え)ものの蒸し暑い朝、お母様と一緒に待ち合わせ場所でお目にかかりました。依頼主の小学2年生の男の子(最初、はにかんでいたので「ハニカミ君」と呼ぶことにします)は、小学生向けの歴史の本をかかえて、お母様とにこにこ話していました。でも後に判明したのは、彼が大人顔負け(といいますか、大半の大人は打ちのめされるかも)の幕末知識人だったことでした。

画像提供:imagenavi(イメージナビ)
事前にお母様と相談させていただいた際、「親が説明できないので、楽しそうなコースをお任せします」とのご依頼でした。う~ん、困った。こういうガイド初めてな上に、コースも工夫せねばと悩んだ末、 “三田⇒愛宕⇒虎ノ門⇒霞が関⇒桜田門⇒皇居”としました。有名だけど幕末にあまり関係のない増上寺はすっ飛ばすルートで、「勝海舟と西郷隆盛会談場所跡」からスタートしました。
勝海舟どころか山岡鉄舟も知っているハニカミ君に、ガイドのオッチャンはうれしくなりました。と言いますのもこのオッチャン、山岡鉄舟の大ファンであります。「なんで、会談しなくちゃいけなかったの?」と逆に聞いたら、「……」と無言。するとお母様、「この前、大きな声で話していたじゃない! ネジさんにお話ししたら…」と背中を押します。ハニカミ君もじもじでしたが、仲の良い母子がとても素敵でした。
電車と徒歩で、勝海舟と西郷隆盛が一緒に江戸の町並みを眺めたという、愛宕神社にご案内しました。最初の会談で合意できなかった2人は、ここに上り、「この美しい江戸を火の海にはしたくないね」って話したとか(どっちが先に言ったのか諸説あるようです)。
また、ここは井伊直弼大老を討たんとする水戸藩士らが、この神社で祈願してから桜田門に向かった場所でもあります。という幕末話をすると、「へえ~」ボタン(古くてスミマセン)を軽く押していただきました。
愛宕神社は徳川家康が建立した由緒ある神社で、「出世の石段」でも有名なところです。「愛宕山は自然の山としては23区最高峰。標高約26メートルもあります」ってな話をしたところ、お母様にはウケたのですが、ハニカミ君は「……」。オッチャンはそれでもくじけず、なぜ、出世の石段と呼ばれるようになったか、と話を広げます。
三代将軍家光さん(さすがハニカミ君知っていました)が増上寺へお墓参りした帰り、梅がきれいに咲いていたので、「誰か、この石段を馬にて上り、あの梅をとってまいれ!」と言ったんだって。でも、歩いてもきつそうな石段に、家臣はみんな下向いて『ヤバイッ! しーーーーーん』。短気な家光さん、機嫌が悪くなって爆発寸前のとき、突然、一人の武士が馬にまたがり、この86段をパッカパッカと登り、神社の梅の枝を折って、同じ86段をパッカパッカと下り、家光公に献上したとか。その武士は曲垣平九郎(まがき・へいくろう)という四国は丸亀藩の人。家光さん感心して、「その者、あっぱれなり。日本一の馬術の名人である」とほめられて、出世したんだよ。
すると、ハニカミ君、「ヘ~~曲垣平九郎ってすごいね!」と、へぇボタンを連打連打。これはウケマシタ! 帰りに、急峻な石段の、上から下をのぞき込もうとしたハニカミ君を、お母様は「やめなさい!」とピシャリ! 雨で石段も濡れていたので、次回は天気の良い時にお父様とご一緒に!

愛宕神社『出世の石段』撮影・ネジ根塚
続いて、虎ノ門琴平タワーというハイカラな高層建築の敷地にある金毘羅宮に、休憩がてら立ち寄りました。お母様がお詣りに行かれたので、ハニカミ君と2人で話していました。すると、来ました、爆弾質問が。
「ネジさん、開陽丸ってなんでオランダが作ったの? 慶喜将軍は何でこの船で先に逃げたの?」
ウッ、OMG!(Oh My Godの略ですが、ここでは「えらいこっちゃ!」と訳します)。
カイヨウマルだとぉー。海王丸(カイオウマル)[注]の船長だった人なら友人にいるけど。完全にスベっております。[注:海王丸は現在、日本丸と並ぶ日本の誇る大型帆船です] 慶喜が逃げたぁだとぉ~。チキンだったとは聞いてたから、ありえるなぁ~。などなど、無い知恵を必死に絞り、薄ら覚えを120%引き出して、説明します。
「え~~っとね、最初はアメリカに頼んだのだけど、日本が大きな船を持つのはヤバイということで、断られた(語尾弱し)。んで、オランダに頼んで作ってもらったのが開陽丸! 慶喜さんは榎本武揚さんと入れ違い、というかナンカアッテ先に江戸にいったんだって」。ハニカミ君は「ふーん」と不完全燃焼気味です。アカン! ここでお母様が戻られたので、「すごい質問にタジタジでした…」と窮状を訴えました。帰宅後、調べてみたら、当たらずとも遠からず(ちょっと甘いかな)。
さて、ハニカミ君もお母様も、大の大久保利通ファン(通好みです!)。で、住んでいた場所を知りたいとのリクエストがあり、向かいます。虎ノ門交差点を過ぎると、景色は官庁街。文科省を通って財務省(どちらも不祥事でお忙しいご様子でした)の角から潮見坂をトコトコ上り、お屋敷がかつてあった坂の上の交差点に着きました。「なんで大久保利通は殺されたんだろう?」と地図を見せて説明すると、真剣な眼差しで地図に見いるハニカミ君でした。
「大久保利通は内務卿といって、今の総理大臣を超える力のある人で、天皇によく会いに行っていたんだ。でも、“西郷隆盛を見捨てて、新しい政府で好き勝手に偉そうなことばかりしている”と思われてずいぶんと敵も多かったんだ。西郷さんが自殺したのも大久保のせいだ、みたいなことにもなって、命を狙う人間が出てきたんだ。狙うなら表にいるとき…で通勤途中を襲った…で、道の話…もともとここ(大久保邸跡で話しています)から皇居におらせます天皇に会いに行くのに、通った道が、この地図にある青い線のところ。桜田門まで1キロもないし、まわりは政府の建物ばかりで安全だよね。でも、1873年に皇居が火事になって、天皇が仮皇居(今の赤坂御所)に引っ越された。なので、天皇に会うためにこの赤い線の道を通ることになったんだ。遠いよね。赤い線だと人通りの少ない場所も通ったりするので、そこを狙われたらしいよ。相当恨みを持たれていたらしい。けどね、大久保は西郷を見捨てたわけでもないし、好き勝手ばかりをやったわけでもないといわれているんだ。人は見方で簡単に逆に見えてしまうからね。」
「なぜなんだろうと思うこと、そしてそれを調べ、知ることが、歴史の面白さに触れることなんだ」。ネジさんはそう思っています、と伝えると、ハニカミ君はうなづきつつ、どこか遠くに思いをはせている様子でした。
とても仲良しの母子ゲストとの街歩きはあっという間に終わり、井伊直弼邸跡(今の憲政記念館のところ)に寄り道して、桜田門をくぐり、皇居二重橋前でお別れしました。自宅に戻ると、「なんか殺されちゃった人ばかり巡ってしまったなあ」と急に気になり、もっと面白い幕末を探さないといかんと反省。しかしその夜、お母様からとても楽しかったとのメールを頂き、ほっとしました。メールには、ハニカミ君がその日の夏休み日記に描いた絵が添えられていました。出世の石段を馬で駆け上がる、曲垣平九郎の雄姿でありました。びっくりするくらい上手な絵です。

『ハニカミ君の上手な絵』撮影・ネジ根塚
仲良しのお二人はその後、日本橋!まで歩いて行かれたとか…
今回はガイドとは名ばかりで、利発な小学生の男の子と一緒に勉強した、むしろ逆に教えられることが多かった体験となりました。
お読みいただき、ありがとうございました。

還暦チョイ過ぎ「ちょい悪オヤジ」になれないちょいと残念!なオッチャンです。鉄道模型(Nゲージ)好きで新しいジオラマを画策中、が妄想の独り歩きで手が動かず…老人ホームや小児病棟の子たちにジオラマを持参して見せてあげるのが夢です。 家族の顰蹙をよそに、とうに卒業した娘の女子校で出会った父親仲間(通称:卒業できないオヤジ達)との交流を楽しんでおります。

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大変面白く読ませてもらいました。
歴史はむずかしく、説明が大変ですね。
次回を楽しみにしています。