【火事】
今思へば皆遠火事のごとくなり 　　　　　能村登四郎
三度火事に逢うて尚住む神田かな 　　　　岡本松濱
やがては至る晩年遠く火事一つ 　　　　　有馬朗人
また青き夜天にかへる火事の天　　　　　 谷野予志
寄生木やしづかに移る火事の雲　　　　　 水原秋櫻子
昼のをんな遠火事飽かず眺めけり　　　　 桂 信子
暗黒や関東平野に火事一つ 　　　　　　　金子兜太
有線の声の吃りて火事を告ぐ　　　　　　 西浦一滴
朧夜や本所の火事も噂ぎり　　　　　　　 飯田蛇笏
火事あかり道のみかんの皮染めぬ　　　　 大野林火
泣く人の連れ去られゐし火事明り　　　　 中村汀女