1. 芋を煮て一気に秋の深まりぬ
2. 四十七士の墓それぞれに秋深し
3. 秋深し灯眩しき無人駅
4. 秋深し居住まひ正し書を開く
5. 秋深し河童橋から見る穂高
6. 秋深み丘に比叡の風わたる
7. 病窓の入り日やわらに秋深む
8. 穭田を濡らして過ぎる山の雨
9. 穭田に遊行柳の色褪せて
10. 穭田の海風わたる千枚田
11. 日矢射せば穭田あたり小宇宙
12. 穭田に雀の群や空茜
13. 穭田に残る轍や雨過ぎて
14. 火恋しつくづく一人と思ふ夜は
15. 火恋しか細く虫の鳴く夜は
16. 火恋し独りで長き電話かけ
17. 暮れの雨に持病出で来る火が恋し
18. 暗闇の朔なる夜寒火の恋し　　
19. 外壁の塗装を終へて火の恋し
20. 磨かれし渡り廊下や火の恋し
21. あの友と出会ふ想ひ出胡桃見ゆ
22. 木橋より届くところに鬼胡桃
23. 音せぬと知りつつ胡桃振ってみる
24. 夕映えの高木に青き胡桃の実
25. 胡桃割り中の白実を食し見る
26. そよ風に耳を傾け胡桃割る
27. 山間の岩場登るや胡桃落つ
28. 斑鳩の層塔はるか柿紅葉
29. 九品寺の彼岸此岸や夕紅葉
30. 夕暮れに紅葉の映へる嵐山
31. 満天星の紅葉垣根を紅に
32. 苔寺のあちこち紅葉苔の上
33. 林道の雑木紅葉の風に鳴る
34. 校庭の銀杏黄葉や子ら憩ふ