1. 対岸に網振る少年秋の暮
2. 隠れん坊横丁から猫秋の暮
3. 砂浜の砂の軋むや秋の暮
4. 教会の鐘の音侘し秋の暮
5. 高原の広がり独り秋の暮れ
6. グリン車の車窓遥かに秋の暮れ
7. 焼いの田の煙たなびく秋の暮
8. 身に添えるささやかな風秋の暮
9. 平城京に天平の空草紅葉
10. 老いるとは生きていること草紅葉
11. 草紅葉雲の流れて木道に
12. 来た道を振り返りもす草紅葉
13. 草紅葉美しき色づく城址苑地
14. 廃駅のプラットフォームや草紅葉
15. 踏切の警報音や草紅葉
16. 十日ほど病んで死にたし草紅葉
17. 吹く風に頷きおりぬ草紅葉
18. やや寒や帽子忘れて街の角
19. やや寒の池に釣人ひとりかな
20. やや寒く熱き粥音の朝餉かな　
21. 投薬の増える齢やうそ寒き
22. 履き直すジョギングシューズやや寒し
23. やや寒のグランドに立つや武者振ひ
24. 独り居の夜中の目覚め秋寒し
25. 江戸よりの続く酒蔵栗の里
26. 山栗を噛めば我も動物めく
27. 栗拾ひ炊き込みご飯に余るほど
28. 宅急便里の山栗送りくる
29. 園児らは歓声挙げて栗拾ふ
30. 夕飯は栗釜飯や独り酌む
31. 赤き眼の飛び出す車道夜の鹿
32. 山あひの尾を引く真夜の鹿の声
33. 鉄路内どこ吹く風の鹿入る
34. 鹿鳴きしあとの静寂をつなぐ風
35. 猿沢の池見学に鹿寄れり
36. 鹿鳴いてガイドいよいよ名調子
37. 鹿の群横切り行くや単線路