【千両】
いくたび病みいくたび癒えき実千両 　　　　石田波郷
千両の実をこぼしたる青畳 　　　　　　　　今井つる女
半日にして千両の啄まれ 　　　　　　　　　木内彰志
千両を供へ霊泉祀らるる 　　　　　　　　　清崎敏郎
千両の実の自己主張つぶらなり　　　　　　 小西緋紗女
枝折戸を閉ざす山荘実千両 　　　　　　　　五十島典子
植ゑ変へて一両こぼす実千両　　　　　　　 日下野仁美
千両や大墨にぎる指の節 　　　　　　　　　長谷川かな女
千両の実のくれなゐの日暮にゐ 　　　　　　角川春樹
夜半亭蕪村の墓や草さんご 　　　　　　　　星野麥丘人
源三位墓前眼に沁む黄千両 　　　　　　　　松本 進
襖絵の墨の薄るる実千両 　　　　　　　　　古田紀一

【万両】
生き残りたることかなし実万両 　　　　野見山朱鳥
座について庭の萬両憑きにけり 　　　　阿波野青畝
万両や癒えむためより生きむため 　　　石田波郷
万両やつねのこころをたひらかに 　　　森 澄雄
万両や着丈合ひたる借衣裳 　　　　　　飯田龍太
万両を木伝ふ雨となりにけり 　　　　　清崎敏郎
万両の紅をかざりてのぼり窯 　　　　　柴田白葉女
万両のひそかに赤し大原陵 　　　　　　山口青邨
万両の万の瞳の息づきて 　　　　　　　永方裕子
万両にかゝる落葉の払はるゝ 　　　　　高濱年尾
万両や幾代湧きつぐ隠し井戸 　　　　　吉田知暁
万両や産み月の娘の薄化粧 　　　　　　高間礼子

明日の兼題は、「松過ぎ」です。