【冬の霧】
美作や田の面をのぼる冬の霧 　　　　　大谷あさ子
冬霧のはれゆく墓の減りもせず 　　　　石田波郷
冬霧ゆく船笛やわが在るところ 　　　　橋本多佳子
石屋根の村がすっぽり冬霧に 　　　　　市川秀穂
鍬入れて信濃に早き冬の霧 　　　　　　宮川正子
冬の霧アルミの如き日かかれり　　　　 松崎鉄之介
冬霧や漁船離れぬ群かもめ 　　　　　　葉狩てる子
冬霧やしづかに移る朝の刻 　　　　　　谷野予志
冬霧や死をさしてゆく道の上　　　　　 赤尾兜子
赫き日を得て冬霧のうごき出す　　　　 岸田稚魚
月光のしみる家郷の冬の霧　　　　　　 飯田蛇笏
橋に聞くながき汽笛や冬の霧　　　　　 中村汀女
冬霧や四条を渡る楽屋人 　　　　　　　中村吉右衛門
冬の霧ある夜の大地親しけれ 　　　　　原 石鼎