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おとなの文章教室【2】みんなが夢見る「すらすら書く」ために

どうすればいい文章が書けるのか、お悩みの方に向けて始まった「おとなの文章教室」。
全国紙の記者として40年近く活躍し、国際、外交などについて沢山の記事を書いてきた【遠藤タヌキ先生】と一緒に、思いが伝わる文章の書き方について学んでゆきましょう。

今回は、第一回で皆さんからお寄せいただいた課題文の中からタヌキ先生が見つけた、文章上達へ寄せる想いについてじっくり考えていきます。

おとなの文章教室【2】みんなが夢見る「すらすらと書く」ために

画像提供:imagenavi(イメージナビ)

 講座の更新が遅くなって申し訳ありません。台風災害に続き、北海道の胆振地震、ブラックアウトなどで振り回されてしまいました。この夏、異常高温の日々をはじめ、過酷化する天候災害や相次ぐ地震に見舞われ、なんだか不安が昂じます。被災された方々にはお見舞い申し上げます。皆さま、災害への備えをもう一度、ご確認いただけますようお願いします。

さて、さっそく多数の方が、課題文を送ってくださりました。ほかにも、読んでるよ、という方々もかなりいらっしゃるようです。ありがとうございました。

皆さんがこの講座に興味をもたれた理由、動機は何なのでしょうか。課題文にもそのへんをお書きになっている人がおられました。共通するのは「すらすら書けて、時間短縮できれば」(けあまねはなちゃん)というご要望が一つ。もう一つは「句読点の打ち方が分からない」(神奈川・きみじか3)といった、技術への疑問解消のご希望でした。

なるほど、なるほど。読んでいるだけの方々も、そんな思いでいらっしゃるのだろうと拝察いたします。そこで、今回は「すらすら書ける」をテーマにして、この講座をスタートさせようと思います。「句読点」は、これはこれで結構、奥が深い話ですので、回を改めて考えてみます。
お送り頂いた自己紹介の課題文は、そのときに具体例としていくつか引用させて頂こうと思います。

さて、どうすればすらすらと書けるのか。いろいろとサジェスチョンはできます。が、正直な話、プロの物書きの世界にいる私にとっても、文章を書くときは脂汗(あぶらあせ)、七転八倒の苦しみを味わっています。この文章講座にしても、同様です。きっと、すらすら書いているんだろうなあ、と他人のことをうらやましいと思っておられるあなた、それは思い違いです。これが第1の答え。

野坂昭如との、私の悲しい体験

それじゃあ講座になりませんから、第2の答え。みんな苦労しているんです、工夫しているんです。私の、悲しい体験をご紹介しましょう。

 昔、作家の野坂昭如(のさか あきゆき)さんとお話しする機会がありました。私が担当している自民党の政治家について聞きたいということなので、エピソードとか、政治家の人となりをお話ししました。高名な小説家と話せるせっかくの機会でしたので、こちらからもずけずけと質問しました。

Amazon.co.jp: 野坂 昭如:作品一覧、著者略歴

Amazon.co.jpより[野坂 昭如:作品一覧、著者略歴]

お聞きしたのは『エロ事師たち』とか、『火垂るの墓』とか名作の裏話ですね。そして野坂さんがおっしゃいました。「俺も長く作家をやっているけど、文章にはいつも自信がない。もだえ苦しんでいる」。当時、30歳代の記者だった私は、我が意を得たりの思いで、「そうですか。ぼくも一度もうまく書けたと思うことがありません。野坂さんにして、そうなのかあ」と言いました。

若かったのでしょう、あるいはそれほど悩んでいたのでしょう。私としては何もおかしなことを言ったつもりはなかったのです。が、野坂さんは一瞬、きょとんとした表情を浮かべたあと、爆笑です。「君といっしょにされてもなあ」。今、思い出しても顔から火がでます。一流の小説家と駆け出し記者が意気投合しそこなった、悲しいお話でした。

でも、でも、です。野坂氏ですら、呻吟しているのです。もちろん、表現に求める厳しさ、小説における構成力の大事さなど、つまりはレベルの差はあるでしょう。でも、苦しんでいる点では、私や皆さん方と変わらないのではないでしょうか。そして、その苦しみから抜け出すための、あの手この手の工夫をしているのです。第2の答えの意味は、そこです。すらすら書くためには、工夫が必要なのです。

コツ1:まず、メッセージを考えましょう

野坂さんの悩みがどれほど深いのかは私には分かりませんが、私たちレベル(失礼! 普通の人々、という意味です)で工夫すべきは、まず、どんなメッセージを書くのかを、初めにはっきりさせることです。

課題文をお願いした自己紹介の例でいえば、自分についてどんなメッセージを紹介するか、どんなイメージを伝えるか、考えることですね。だれに向けて書くのか、と密接につながっています。同じような年代、趣味を楽しんでいるシニアの男女とか、あるいは同じ趣味の男性だけ、女性だけ、であっても構いません。読者を具体的に思い浮かべることが、メッセージをよりシャープにします。

まったく見ず知らずの読者ですから、自分のプライバシーをいきなり公開するのはためらわれます。自分が今、どんなことに関心を持っているのか、何を楽しんでいるか。それはなぜなのか。何がきっかけなのか。そういったことをつづることで自分の人なり、性格、好みなどを分かっていただければいいな、としましょうか。

コツ2:「作戦」をつくって、堂々巡りを避けよう

ここまでで、ほとんど文章の骨格ができていることに、お気づきいただけると思います。文章を書き始める前に、ここまでは考えるようにしてください。さもないと、あなたの思考はたちまち堂々巡りにはまってしまいます。自分の正体をどこまで書こうかしら、仕事? 家族? 面白いと思ってもらえるかしら。などなどで思い悩み始めてしまいます。「すらすら」への最大の敵は、「思考の堂々巡り」なのです。ある程度の道筋を描いてから、作戦をつくってから、歩み出すことをおすすめします。

私は都内の大学で「文章作法」という講座を教えています。論理的な文章の書き方を学ぶという講座です。時々、授業時間内(90分)で800字の作文を書かせます。テーマもその場で出します。そのとき、原稿用紙とともに白い紙を一枚ずつ配ります。書き始める前に、まず作戦を考えてもらうためです。学生たちには、こう言います。どんな主張をするのか、どんな論理構成でいくか、起承転結でそれぞれ何を書くか、最初の30分間は白い紙を使って作戦を考える。それから書き出しなさい。あせっちゃだめ。しっかりとした作戦があれば、すらすら書けるから。

この1枚の紙を渡した場合と渡さなかった場合とで、作文の出来はまったく違います。それは驚くほどです。両方を学生たちに経験させ、事前に作戦を考えることの重要さを認識してもらいます。

皆さんの中には、学生のように時間制限があるわけではないのだから、まず、頭に浮かんだことから書き始めて、途中で方針を固めていけばいいではないか、とおっしゃる方もいるでしょう。今はパソコンで書く方がほとんどでしょうから、書いたり消したり、段落を動かしたり、くっつけたり、コピペを使えば難なく、まさに自在に手を加えることができます。原稿用紙や便箋を何枚も破っては書き直す時代ではありません。

コツ3:我慢して書き進めましょう

それでいける方は、もちろんそれで結構です。時間はかかるかもしれませんが、書きながら頭を整理していくやり方ですね。アドバイスが一つあります。まず書いてみるのはいいのですが、あまり早い段階で手をいれようと思わずに、そこそこの分量になるまで我慢して書き続けることです。数行書いては直し、という作業に入ってしまうと、先に進めません。肝心なのは何を書きたいのか、一度、形にしてみることなのです。文章としての完成度とか、構成のわかりやすさなどは二の次にして、書き進めてください。

工夫と我慢ですね。事前の作戦づくりは、慣れないうちは煩わしく感じられることでしょう。でも、あまり大げさに考えずに、たとえば見出しを考えてみる、ということから始めてはいかがでしょうか。その場合、たとえば「私の思い出」とか、「私の好きなこと」「学生時代」といった抽象的な見出しではなく、「尾瀬の木道に魅せられて」とか、「浅草の裏道にふるさとを見つけた」、「ア式蹴球からサッカーへ」といったように、具体的なものの方が書きやすいはずです。読者にとっても、どうでしょう、後者のほうが「ほう、面白そうだね」と思って読んでくれそうじゃありませんか。

「大人の文章教室」すらすらと書くための3つのコツ

今回は「すらすら書く」をテーマに、心構えのようなことを書かせていただきました。次回から、技術論に入っていきましょう。ご感想をお寄せください。

第2回課題文「私の災害体験」

次の課題文は「私の災害体験」をテーマにします。このところ、台風やら地震やらが相次ぎ、日本列島はどうなってしまうのかと、心配になってきますよね。実際に災害を体験された方は、その様子、そのとき感じたこと、当事者になったことのない方は、テレビや友人、親戚から見聞きしたことで構いません。400字以内。この夏の猛暑、酷暑であれば、どなたも経験されています。何が起きたのか、エピソードを的確に伝え、かつ読者の関心を意識して書く。そのあたりがポイントです。

【お願い】
皆さんから寄せていただいた課題文の中から、文章や表現などを部分的に抜き出したりして、書き方について考えていく予定です。その時に使うために、本当のお名前とは別にハンドルネームをつけてください。「東京・たぬき親父」「青森・リンゴ好き女」といった感じです。

◇テーマ:「私の災害体験」

◇タイトル:20文字以内

◇本文:400文字以内

◇投稿締め切り:2018年10月31日(水)

課題文はこちらから投稿いただけます。

応募受付は終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました。

【ご感想やご意見はこちらから】
ご質問、ご感想やご意見は「おとなの文章教室 専用サークル」で受け付けますので、フォローをお願いします。お気軽にメッセージをお寄せ下さい。どなたでも、いつでもご参加可能です!

講師プロフィール
「おとなの文章教室」講師プロフィール

遠藤 タヌキ 先生
(えんどう タヌキ)


全国紙の記者として、40年近く活躍。政治、国際、外交などについて沢山の記事を書いてきました。中曽根、竹下、宮沢政権から民主党政権、安倍政権まで取材し、冷戦の終結、ソ連崩壊なども目撃しました。都内の大学で、メディア論や文章論などを教えています。


コメント
  1. 野坂昭如さん、怒ったのではなく、笑ったところが優しいですね。
    さすがは大家だなあと思います。
    「災害体験」、ちょっと難しそうですが、チャレンジますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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