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梅花ものがたり

寒さの厳しい季節に咲き始める梅は古くから日本人を魅了してきました。江戸時代の俳人、服部嵐雪が「梅一輪 一輪ほどの 暖かさ」と詠んだように、一輪また一輪と花開くごとに春の訪れを感じさせてくれます。

梅は教養文化の証

梅の原産地は中国の長江流域で、中国が唐の時代に遣唐使や修行僧らによって日本にもたらされたと推測されています。塩梅(あんばい)という言葉の通り、当初、すっぱい梅の実は塩と並んだ調味料として利用されました。また、梅の実を黒くいぶして作る烏梅(うばい)というものが漢方薬として用いられるなど、当初は梅の“花”にスポットは当たっていませんでした。やがて、まだ霜や雪の降る季節に、可憐な花を咲かせ、匂やかな香りを漂わせる梅の花が、古代の日本人の心をつかむようになりました。現存する日本最古の歌集『万葉集』には、梅の花を詠んだ歌が約120首あり、その数は萩に次いで多く、桜の40余首をはるかに超えています。梅の花を詠んだ歌のうち4分の1は、太宰府の長官であった大伴旅人が太宰府で正月に観梅の宴を開いたときに詠まれたものです。中国から伝来した梅は、万葉人にとって中国の文化教養を象徴する花であり、梅の花を愛することは文化人の証であったのです。

梅をこよなく愛した天神様

梅の花をこよなく愛したといわれる人物が学問の神様で知られる菅原道真です。幼少のころより学問の才能を発揮し神童と称され、5歳のとき初めて詠んだ和歌にも、11歳でつくった漢詩にも梅が登場します。京の邸宅には紅梅が多く植えられ、「紅梅殿(こうばいどの)」と呼ばれていました。道真は右大臣にまで出世しますが、身に覚えのない罪によって突然太宰府に左遷されてしまいます。そのとき、二度と都には帰れまいと嘆き悲しんで詠んだ歌が「東風(こち)吹かば匂ひおこせよ梅の花 あるじなしとて春を忘るな」(梅の花よ、東の風が吹いたら、その風に乗せて匂いを届けておくれ。主人がいなくなっても、春を忘れてはいけないよ)です。道真が紅梅殿を発った後、梅の木が道真を慕ってあとを追い、太宰府に根を下ろしたと伝えられたのが『飛梅伝説』です。このときの梅は「飛梅」と呼ばれ、今も太宰府天満宮の境内にある6000本の梅にさきがけて春一番に花を咲かせます。

左近は桜ではなく梅だった

今日、京都御所の紫宸(ししん)殿の左右には桜と橘が植えられ、「左近の桜」「右近の橘」と呼ばれています。しかし、794年の平安遷都の折、左近には桜ではなく梅が植えられていました。左近が桜になったのは、平安貴族たちの嗜好が唐風文化から国風文化へと変化するなかで、桜が好まれるようになったからだといわれています。とはいえ、平安貴族のあいだで梅の人気は根強く、平安中期に紫式部によって書かれた『源氏物語』には梅の花がたびたび登場しています。

梅前線、3カ月かけて北上

江戸時代になると、観賞用の梅の品種が数多く作出され、日本各地に梅林がつくられました。さまざまな品種の梅を眺めながら、梅林をそぞろ歩く観梅の文化も生まれました。なかでもぜいを尽くしてつくられたのが大名庭園の梅林です。代表的な大名庭園の梅林には水戸藩主・徳川斉昭がつくった偕楽園(茨城県水戸市)があります。梅文化の発祥の地、奈良の月ヶ瀬梅林(奈良県奈良市)は、大正11年、日本で最初に国の名勝指定を受けています。道真ゆかりの天満宮は全国に12000社を数え、その総本山といわれる北野天満宮(京都府京都市)は梅の名所としても知られています。高浜虚子が「多摩の山 左右に迫りて 梅の里」と詠んだ関東屈指の梅林・吉野梅郷(ばいごう)(東京都青梅市)では、毎年2万本を超える梅が咲き誇ります。梅前線は1月下旬に九州、四国、近畿南部あたりをスタートし、日本列島を3カ月ほどかけてゆっくり北上します。北海道では、梅と桜が同時に咲くことも。足を伸ばせば長期間、花を楽しめるのも梅の魅力のひとつです。

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