第2回 五性、五味、帰経
食材、香辛料のお話をするときにとても重要になる、五性(ごせい)、五味(ごみ)、帰経(きけい)について、説明しましょう。
その食物の五性、五味、帰経がわかると、その食物の効能がおのずからわかる仕組みになっています。4,000年ともいわれる歴史のなかで検証され、薬として使われてきた考え方です。トマトのリコピン、大豆のイソフラボンなどが、なにも化学分析されていなかった時代に私達の祖先はその効用を知っていたのです。
「五性」
陰陽の考え方に基づいた分類方法です。
食物の性質を 熱、温、平、涼、寒 の5つに分けます。
多くの食物は平性に分類され、熱、寒のものは主として薬として使われるもので、普段の食事に使われるものにはあまりありません。
温、熱の食物は食べた後、体が温かくなり、冷えを防ぐ効果が期待できます。
穀類、芋類、甘味料、畜肉(魚肉の一部)、卵、脂肪類、野菜(根菜、緑黄色野菜)、辛味のある野菜、辛味のある調味料などです。
寒、涼の食物は食べた後、体が涼しくなり、清熱作用が期待できます。
魚肉、穀類の一部、野菜(淡色野菜)、水果、海藻、調味料の一部が分類されます。夏の野菜、トマト、キュウリ、ナスなどもここに分類されます。
今後紹介する食材・香辛料に熱、温、平、涼、寒の性質を記しますので、そのつど確認してください。
「五味」
食物の性質を 甘味、辛味、酸味、苦味、鹹味に分類します。渋みは酸味に分類します。全ての食物・薬物には五味がありその性質を知って利用します。
食物の味は単一ではなく、甘くて酸っぱいなどいくつかの性質を持っているものもたくさんあります。五味子は五つの味を持っていることから命名されています。
今後紹介する食材・香辛料に五味が記されますが、ときどきこの性質を思い出してください。
【甘味】
人体の衰えを補い、緊張を緩め、痛みをとる作用があります。漢方では諸薬の中和にも使用しています。
食物の中では一番種類が多いものです。
消化器官の弱っている人にもち米、棗(なつめ)のお粥が使われます。
過食すると弛緩作用が過剰になり、体がだるく、腎の作用を弱めてブヨブヨになります。
【辛味】
体を温め、発散して気血の巡りをよくします。
風邪をひいた時、気が停滞している時は香辛料が効きます。
過食すると、汗などで人体の陽気を発散しすぎて逆に冷えることになります。筋がひきつったり、爪が枯れてきます。
【酸味】
汗、尿などの出すぎるのを収め、渋らせる作用、また殺菌作用があります。
黙っていても汗が出る、長引く下痢、尿の出すぎ、遺精に使われます。
梅シロップは下痢、汗の出すぎを抑え、甘味でのどの渇きを潤します。
過食はもともと発散傾向の少ない人は更に発散妨害をうけます。
【苦味】
体に熱のある状態、湿気がこもっている状態、気逆状態の時に使われます。
気逆とは例えば肺の気逆は咳、胃の気逆は嘔吐、しゃっくり、肝の気逆は頭痛、めまいなどに現れます。
苦瓜は清熱作用があり、熱のために口が渇く、目の充血などの、暑気あたりに良いでしょう。過食すると陽気が少なくなり、皮膚がかさかさになったり、胃腸を冷やしやすくなります。
【鹹味(かん)】
しこりを柔らげ、潤し、下す作用があります。 バセドー氏病、便秘、リンパの腫れに、貝類、海藻、塩、醤油、味噌などがよいでしょう。
過食すると、腎から水を取りすぎて、腎性を弱めることになります。
▲上写真左から、棗(なつめ)、ニガウリの金山寺味噌炒め、生姜のゼリー
「帰経」
食物がどの経絡から入ってどの臓器に影響を与えるかが経験的に実証されています。
経絡は気の流れるルートと考えられます。
経はまっすぐの道で縦の幹線、絡は網で細く小さい分枝という意味です。
経絡で全身をとらえる考え方によると、経脈と絡脈の規則的な運行経路とそれに複雑に絡み合う連絡枝により、人体全ての組織器官、五臓六腑、四肢百骸、五官九窮は有機的なつながりを持ち、全体として統一性を保っています。ですから、一つの臓器の病変は経絡を介して他の臓器にも影響を与えます。
どの経絡に入るかを知って薬を配合しています。
温める性質は同じでも、胃を温めたいか、肺を温めたいかによって食物・香辛料を選択することが必要です。そのときにどの経絡に入るかを調べるわけです。
次回は具体的な例として生姜についてお話します。
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